フローレンスの社会変革のトライアングル(※勝手に命名)が凄いので解説する


フローレンスの社会変革のトライアングル(※勝手に命名)が凄いので解説する

僕は5年前に共同創業した教育系のスタートアップを2017年2月に退職しました。

結婚を機に子育て・保育領域に問題意識が芽生え、現在はフローレンスという保育のNPOで働きながら、新しいスタートアップを創業準備中です。

詳しくはこちらの記事をご参照ください

1年間働く中で、僕はフローレンスの「社会の変え方」に感銘を受けました。綺麗事は大前提とした上で、本当に戦略的なアプローチをしています。

フローレンスといえば「訪問型・共済型の病児保育を運営するソーシャルベンチャー」というイメージを持つ方もいるでしょう。

しかし現在、およそ20億円の売上のうち、病児保育事業部が占めるのは3割弱。小規模保育園、障害児保育、赤ちゃん縁組、こども宅食など、子育て支援領域で多くの事業を運営しています。

会計報告ページより事業部毎の売上高

いずれの事業も、これから解説する「社会変革のトライアングル」という戦略(※勝手に命名)を主軸にしています(これって正式名称はあるんだろうか…)。

フローレンスの「社会変革のトライアングル」とは?

フローレンスの創業事業である病児保育事業は共働きの高収入な子育て世帯が主なターゲット。利用者からの課金が売上の9割以上を占め、寄付や助成金なしでも利益が出る「商売」っぽい財務構造です。

しかし近年はより「福祉」っぽい構造の事業を次々と立ち上げています。障害児保育、赤ちゃん縁組、こども宅食など、いずれも社会的・経済的に極めて弱い立場にいる人たちのための事業です。

利用者への手厚いケアを目的とする事から、サービス提供には多大なコストがかかります。一方で利用者は経済的に厳しい状況である事が多いため、そのコストを全額自己負担することが出来ません。

またこういった利用者との接点が欲しい法人なども少なく、広告モデルや法人経由の福利厚生サービスのような第三者からの課金も成り立ちません。

そのため、これらの事業部では売上の大半が行政からの助成金で占められるような事業モデルとなっています。

会計報告ページより

フローレンスは中でも「助成制度が未整備な(子育て関連の)領域」に特化しています。現状の制度下では経営が成り立たないためサービス提供者もおらず、課題に苦しむ人々が放置されている領域です。

こういった事業を立ち上げるにあたっては、助成制度を作らなければ持続可能な運営は出来ません。

しかし行政に対し「こういう制度を新たに作って助成金を出してください」と直接交渉してもうまくいきません。役所は民間の福祉事業者を統制する立場であり、特定の事業者の優遇は出来ないからです。

そこでフローレンスが採用している戦略が「社会変革のトライアングル」です。これを、僕も少しだけ運営に携わらせていただいた、障害児保育園ヘレンの例を出して解説していきます。

詳しくはこちら

ヘレンは障害児専門の保育園です。例えば、摂食機能が弱く胃に穴を開けて通したチューブを使った「胃ろう」で食事をとる必要のあるお子さん(医療的ケア児)などを、週5日朝から晩までお預かりします。

ヘレン以前、こうしたお子さんの利用できる保育サービスは、ほとんど存在しませんでした。

普通の保育園ではほぼ確実に受け入れを断られます。安全な保育の為には看護師の手厚い配置や医療機器の整備などをする必要がありますが、そのための助成制度、ひいては財務的な余裕がないからです。

他に障害児のための療育施設はありますが、保護者が同伴して数時間/日の利用をするのが通常です。基本的には、両親のどちらか(多くの場合は母親)が24時間付き添い介護せねばなりません。

そのため、障害児の母親の常勤雇用率は健常児のそれと比べておよそ1/7。経済的にも厳しい状況におかれがちです。なにより、同年代の子供同士での遊びを通した発達の機会も失われてしまいます。

障害がある子どもは誰にでも生まれ得るもの。人権的な観点に加え、これから親になる人たちの不安要素を減らす意味でも、障害児向けの保育インフラの整備は急務です。

Step1. まずは小さく成功事例を作る

こういう時、フローレンスではまずは小さくその事業を実現します。いわばプロトタイピングです。

「障害児保育園ヘレン」は2014年に始まり、現在は都内で5園を運営。寄付で物件の初期投資を賄い、「児童発達支援」と「居宅訪問型保育」という2つの制度を組み合わせて運営費を賄います。

障害児保育の為に設計された制度ではないため、正直に言うと運営はすごく大変です。現場にも事務局にも様々な制約条件があり、この事業モデルではあまり持続・拡大可能ではないように思えます。

Step2. 政治家に働きかけ制度・法律を作る

次はそのプロトタイプを元に、助成制度を作ってもらえるよう政治家に働きかけます。武器となるのはこういったロビイング活動にありがちな政治献金・組織票などではなく「人々からの共感」です。

まずはStep1で作ったプロトタイプの意義を様々な手段で社会に発信。代表・駒崎のエッジの効いたキャラクターが倍増させる広報力と、ネット企業顔負けのオウンドメディア運用部隊がそれを加速します。

障害児保育の場合も、多くのメディア露出がありました。また医療的ケアが必要な子ども達の実態を伝える動画はTwitterなどで累計数十万人規模へのリーチを獲得しています。

いやらしい言い方ですが、取り組みに賛同する人々が大勢出て来ると、それは「票」になります。これを背景に、党派を問わず同じ志を持つ政治家に働きかけ、法整備を進めてもらうのです。

法整備を進める政治家や詳細な実務を担う行政にとっても、こういったプロトタイプが先んじて存在する事で適切な制度設計ができます。

障害児保育の分野では全国医ケア児協議会という業界団体を設立して活動したり、議員視察を積極的に受け入れていました。結果、助成額はまだ不十分なものの法律が変わり、新たな助成制度が出来ました。

Step3. 行政と共に運営しつつ他の事業者に広げる

適切な制度・法律が出来れば、行政から継続して補助金が出ます。これで当初は一時的だったプロトタイプが持続可能になるのです。

そして他の事業者と競合するのではなく、逆にノウハウを共有して展開支援を行っていきます。なぜなら「利益を出すこと」でなく「社会を変える」事が目標だからです。

障害児保育の領域でこのフェーズに達するのはこれからです。しかし過去には待機児童問題対策として、小規模保育所という枠組みを同じ戦略で制度化し、全国2,000園以上に広げた実績があります。

全社戦略として徹底

この戦略だと常に先行者利益を享受できる事、また同じ戦略をとる競合がほぼ存在しない事から、高い利益率を保てます。

その財務的余力を活かし、小規模保育園、赤ちゃん縁組、こども宅食など、同じ戦略に基づき次々と新規事業を立ち上げ。回数を重ねるほどノウハウや政治家・行政との繋がりが資産として蓄積して行きます。

そしてこの戦略は組織のアイデンティティとして「Vision」「Mission」などと並び「Strategy」という項目として明文化されているのです。

コーポレートサイトより

組織は戦略に従う

2016年度のフローレンスの売上はおよそ20億円。年3割成長を続け、最終利益率は3-5%と、下手なマザーズ上場企業よりよほど優良な財務構造をしているように思います。

会計報告ページより

これだけ高収益体質であるにも関わらず、法人格は株式会社ではなくNPO。なぜなら株主への利益還元が至上命題である株式会社では「他の事業者に広げる(=収益機会を逸する)」のが容認しづらいからです。

また何かと炎上しがちな代表ですが、裏を返せばその発信力は大きな武器です。しかしこれが上場企業なら株価低迷を招くでしょうし、そうなると株主からの圧力による経営者の交代もありえるでしょう。

他にも、プロトタイプ作成の為に柔軟性の高い資金調達手段である寄付金を活用しやすい事、公益の為のロビイングである事が自明になる事など、NPOはこの戦略に沿った最適な組織体だと思います。

政治家や公務員を志望している・していた人へ

社会に貢献する仕事として、政治家や公務員を志望している・していた人も多いでしょう。しかし公務員として一線で活躍出来るのは何十年もの下積み後でしょうし、政治家なら地盤・看板・鞄が必要です。

しかしフローレンスでは、政治家や公務員と共に法律を作り社会制度を設計するような仕事に、若いうちから携わる事が出来ます。例えば僕が携わったこども宅食には、新卒2,3年目のメンバーもいました。

代表、COO的役割の事務局長、新卒2,3年目メンバーと僕というのが社内のチーム体制でした(こども宅食のFacebookページより)

社内の定例会議の中で「こういう法律を作ろう」「その為に政治家にこういうアプローチをしよう」という話が普通に出てくるのです。とてもエキサイティングな仕事だと思います。

成長している組織の常として、基本的に常に人手が足りていません。興味のある方は採用サイトを覗いてみてください。知り合いなら僕に直接お声がけ頂ければ担当者を紹介可能です。

採用サイトはこちら

なお、事業の成長速度や社内文化はベンチャー風ですが、同時に最近流行りの「働き方改革」の先駆者でもあります。原則として残業禁止で、それでありながら高い業績を叩き出しているのも面白い所です。

詳しくはこちら

ここまでご紹介したような戦略に基づくフローレンスでの仕事は、自分の頑張りが社会を変える事に寄与しているのだという確かな実感に満ちています。本当にエキサイティングな日々でした。

これから始めるスタートアップでも、こういう興奮を味わいたい。世の中を変える挑戦に邁進し、ジェットコースターのような毎日を送り、仲間と達成の喜びを分かち合いたい。そう思っています。

協力者募集

僕はこれから、共働き子育て家庭の深刻な課題を解決する前例のないWebサービスを作り、あまねく人々に届けられるくらい大きくする事を目指しています。現在は下記のような協力者を募集しています。

共働きママさんorパパさん (ユーザーインタビュー)

1.夫婦共にバリキャリ勤め人で、2.保育園〜学童に通う子供がおり、3.子育てで頼れる実家が近くにない方へ。都内のご都合の良い場所に伺い、お茶代は持ちますので、30–60分お話を聞かせて頂きたいです。

女子大に通っている方 (ユーザーインタビュー)

1.女子大に通っていて、2.時給が高く健全なアルバイトを探している/いた、という方にも同じ条件でお話をお聞きしたいです。IT・塾・保育業界の就活相談ならお役に立てると思います。

草ベンチャー仲間

廣田の始めるスタートアップにご興味頂けた方へ。よければ土日祝や平日夜に草ベンチャーをやってみませんか?特にソフトウェア開発やUXデザインを武器にされている方、保育士さんなど大歓迎です。

いずれもFacebookまたは tatsunori.hirota@gmail.com まで簡単な自己紹介を添えてお気軽にご連絡ください。ご興味があればフローレンスの内情などもお話しできます。よろしくお願いします!